一本の竹串に大体10尾
から
13尾のウルメを刺す。
刺し終えた竹串は
右脇の架台に並べ

、20串くらいまとま

ると「洗い」に回す。
「しっか与噛まないと味がにじみ出てこないほどバリバリに乾いた丸干が本物」という信念を持ち「そのためには脂肪の少ないイワシを選ぶことが第一という。
七月にウルメ漁が始まると、毎朝五時から港で船を待ち構えて原料選びに目を光らせるのが山下儀太郎の日課である。
旧盆から八月一杯の体長十五センチ級のウルメイワシ が最上の丸干になる。秋風が吹いて水温が下がると脂肪がついてしまうので、丸干作りは九月末でおしまいにする。六時にセリ落としたウルメイワシはまず大きさによって分類し、それぞれに塩漬けにする。これは味つけと脱水のためだけでなく、筋肉細胞内の塩溶性白を溶解させ、肉質にモッチリしたうまさを与える最も重要な工程である。

九干を一年中欠かさないという埼玉県新座市の羽田善次郎が、「山下水産のウルメは塩加滅が少しきついが、これがまたたまらない」と言うように、九干の味と質は塩加滅一つ。「その朝、水揚げされたウルメを一目見た途端に、きょうの塩はどれだけ、と決める」と、山下儀太郎は言う。
立て塩と振り塩を併用するのが山下流である。あらかじめ大桶に立て塩をして氷塊をぶち込んでおき、トロ箱ごとに徴妙に振り塩を加減して、桶に漬ける。ウルメイワシの鮮度、大きさ・脂ののりかたによって、さらにはその日の気温・湿度によって塩加減も塩漬けの時間も変える。普段は好々爺の儀太郎だが、このときばかりは眼の色が違う。すでに片腕として何でもこなす四十五歳の息子・修平さえまだ子供扱いで、手出し口出しを許さない。
右側の真水と海水混じりの地下水で汚
れ、ウロコを落としてから左側の真水で
洗い、さらにホースで真水をかけて表面
の塩抜きをする。


塩漬けのあとは、串刺し・塩抜き・乾燥の各工程を経て丸干になる。
むろん乾燥はいまや冷風乾燥機の時代で、このほうが不衛生な蝿の心配がなく、品質的にもバラつきがなく天日干しより確実によいものができる。串刺しからあとの作業で、みずから手練の早業を見せながら三十名の女性軍を陣頭指揮するのは、儀大郎の女房・君子である。ここでは当主といえども一切の口出しを許されない。女たちの働きぶりを見ながら主は言った。「自分たちが食べ美味しいと思うものだけを作る。これがうちの流儀」
天日干より冷風乾燥のほう
が品質がよい。
20°Cの冷風乾燥室で約70時間熟成させる。
魚体を傷めないよう網棚
に寝かせて並べる。